ウィーン少年合唱団

夫の語ってくれた思い出です。---
子どものころ, 美しい響きの少年合唱を収めた小さいレコードを繰り返し聴いた。 A面に『美しく青きドナウ』, B面に『ブラームスの子守唄』。
父が『青きドナウ』という映画に連れて行ってくれた。 ウィーン少年合唱団を描いた作品だった。 変声期を迎えた一人の団員が合唱団に残れるように, 仲間が奔走するという内容だったと思うが, 美しい声をもつ少年たちが音楽の特別な授業を受けるシーンに惹かれた。 私は心に痛みを感じるほど彼らの仲間に入りたいと思った。 しかしその当時, 外国人は団員になることができず, たとえ私がとびきりすぐれた才能をもっていて, ウィーンに行くことができたとしても, それは「叶わぬ恋」だった。
ウィーン少年合唱団には, もう一つ『野ばら』という映画があった。 両親を失い, 老人に育てられていたある少年が合唱団に入団する。 彼は団員の世話をしてくれるマリアという女性を慕う。 彼女は合唱団の若い指導者の恋人だった。 あるとき,その指導者が合唱団の経費をまかなう高額な小切手を紛失する。 少年は運悪く偶然の誤解から疑いを掛けられ, 追い詰められ, マリアの恋人をかばって罪を認めてしまう。 退団することになり絶望した少年は, 黙ってひとり山に入り, 誤って谷川に転落する。 ところが楽譜の間から小切手が見つかる。 少年は無実だった。 ようやく事の真相を知った大人たちは驚き, 捜索し, 気を失って倒れている少年を発見する。 マリアは, 意識が戻らない少年を夜通し看病する。 そして朝日が差し込む病室で美しいマリア像に祈る。 背後にアヴェ・マリアの合唱が聞こえている。 そのとき意識を取り戻した少年がマリアの後姿に声をかける。 聖母マリアの像とマリアの祈りとアヴェ・マリアの響きに胸が熱くなった。
筋立てにはちょっと無理な感じもあったが, このように祈ってくれる人がいるなら, 意識を失うのも悪くないなと思った。